俺には4人の恩師がいる。いると言っても、直接その人達に「あなたは俺の恩師です」と言ったわけではないが。まぁ、いわゆる『心の恩師』というヤツである。
1人目は、北海道の極寒地獄で出会ったメインプログラマ。この方のスタイルは後の俺に大きな影響を及ぼした。
当時駆け出しで見た目からして若手であろう俺に対しても、常に穏やかな丁寧語で話し、指示は口頭であっても必ずメールし、いわゆる『忘れていた』が起こらないように全員に指示していた。そして、メールの振り分けルール(件名に【プロジェクト名】)、コメントのルール、プロジェクト全体の設定方法、VSSの手引き等、すべてドキュメントを用意し、自身のメインプログラマとしての雑用を軽減させ、かつ、若手の質問を最小限に抑えていた。それから、誰がなすべき作業なのかを常に明確にしていた。ご自身の作業であれば「××までに私が作ります」と言い、他者の作業であれば「それは○○の作業なので、いつまでに完成するか確認して、メールか口頭で伝えます」と、自分の作業を明確にされていた。ここまで指示された上で、情報を聞き漏らしたのであれば、それは確実にこちらの責任となるので、当然、こちらも集中する必要がある。10人を超えるプロジェクトのメインをされていたので、こちらから疑問があって直接確認した後、ご自身が忘れないように必ず「今の件、メールでも送っておいてください」と伝えるのが常だった。俺は、10人規模のメインプログラマを勤めたことはないので、氏の苦労がどれほどのものだったか、想像でしか分からない。とかく、『メインプログラマとしての仕事の仕方』は、この方の影響を大きく受けた。
2人目は、お亡くなりになったと聞いた、酒とタバコで生きていたプログラマ氏。この方の考え方は、大いに影響を受けた。
この方の作られたシステム、個人的には今ひとつ受け入れがたいカンジであったが、その設計理念は大いに同意できた。残念ながらそのシステム、いわゆる『スクリプタ』には非常に敷居が高く、プログラマでないと理解しづらい設計だったであろうな、と思っている。特に、俺の前いた会社のシステムと比べると、その使い勝手は雲泥の差だ。自由度が非常に高い反面、決して使いやすいものではなく、変数の概念やその使用可能範囲、他者と被らないようにしなければならない命名規則等々、色々と複雑で使った人の評判は今ひとつ高くない。俺個人は本格運用になる前に離脱することになったので詳しく触っていないが、あの設計思想を元に、前の会社で使っていたシステムを混ぜると、もう少し『スクリプタ』に優しく、かつ高機能なエディタになりそうな気がしていた。その設計思想は、忘れずに心の中に留めてある。
3人目は、前いた会社の上司だ。人当たりの良さと問題解決能力の高さは、その会社の中でも群を抜いて高い方だ。この先1人で生きていく以上、この2点は常に意識しておかねばならないと感じている。
『経理をやっていたらいつの間にかプログラマになっていた。何を言っているかわかr(AA略』という異色の経歴ながら、C/C++、Z80アセンブラだけでなく、HTML、Perl、PHP、サーバ関連、ネットワーク関連、マシンセットアップやマシンの不調、果てはプリンタの異常まで、何かあれば頼られる存在であった。北海道から帰ってきた俺は、「あの人は凄いプログラマだから、あの人から雑用を奪わねば」と、マシンセットアップやマシン・プリンタ不調、ファイルサーバ関連など、あらゆる仕事を奪い取っていったつもりだ。特に、マシン関連のトラブルはとにかく場数がモノを言うので、分からないときでも後ろから一緒に覗き込んで知識を溜めていった。仕事の内容上、俺が対応できるのはそれら雑用とC/C++程度なので完全に頼られる存在にはなれなかったが、目標として常に頭に入れておきたい存在であった。
4人目は、これまた前いた会社に方だ。ある意味、俺が目標とする最終形態に近い状態におられる方だと思う。
話によると、SFC時代からプログラムをされていたとのこと。以前、「メジャーなゲーム開発に携わったことありますか?」と聞いたが、「ほとんどない」ということだった。確かに、聞いても知らないゲームばっかりで困った(苦笑)。とにかくプログラムに対して貪欲で、新しい技術は黙っていても気がついたら触れている。そしてそれを俺に的確に教えてくれる方だ。ソースコードは汚く、コメントはほとんどないが、上からきちんと読んでいけば何をしようとしているかは理解できる。職人プログラマの究極形だ。少なくともフリーで生きていく以上、この方並の知識欲と理解力、実践力は持たねばならないと、常々思っている。
アメリカAAAで審判をされている平林岳氏の
ブログのエントリを見て、ふと、俺の恩師のことを思い出してみた。プログラマの恩師への恩返しとは何だろうか。ちょっと見当つかないが、いつか、再会した折には、成長した姿を見て頂きたいと願っている。そのために、今はとにかく地盤を固めること。1歩ずつでも1足飛びでも猛ダッシュでもいいから、前を向いて進もうと思う。